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2002年9月12日

音楽ジャーナリスト:池田卓生の今日の音楽日記
ご案内

 9月3日

 取材は午後から。ホテルで朝食を済ませ、市内を1時間半ほど散歩、寿司店が増えたのにびっくり。景気が好転、ヤッピーが増えると"スシバー"がついて来るのは世界的傾向か。フィンランドの世界的建築家アールトが設計した歴史的ビル、アカデミア書店を訪れ、5,000語を収めた日本・フィンランド語辞典を27ユーロ90(1ユーロは120円弱)で買う。「酔っ払い」を「juoppo(ユオッポ)」というのは有名だが、西洋系や中国系の外来語を除き古来の大和言葉に絞ると、どこかしら似た音感の残る単語もあり、日本語と韓国語、ハンガリー語、エストニア語、フィンランド語がアジア系の「フィン=ウゴル族」という共通の言語体系に属する事実を少し、実感できた。街の雑踏が日本語のように響く瞬間は意外に多い。ホテルに戻って背広に着替え、最初の約束はフェスティバル事務局でネエミネン事務局長、クンプネン広報担当とおち合い、ランチ。出荷期間を限定するほど、秋のフィンランドの味覚を代表するザリガニ。そのスープとザリガニソースで味をつけた白身魚の焼き物を頂き、デザートには、やはりフィンランド銘菓のブルーベリー・タルト(温製)。食後は美術館「クンストハレ・ヘルシンキ」でアーティスト、マーリア・ヴィルッカラの展覧会「So What」を彼女自身の案内で見た後、話をきいた。日本でも来年、展覧会を開くマーリアはフィンランドの中堅世代を代表する作家。瞬時に移ろう対象物への不安を通じ、人間の存在自体や内面世界の脆さを浮き彫りにしつつ、ユーモアのセンスも忘れない。次はパリのIRCAMを拠点とする作曲家でもある「ムジカ・ノヴァ・ヘルシンキ」現代音楽祭の芸術監督、キモ・ハッコラと面談。取材というよりフィンランド人、日本人の創作の根源についての意見交換だった。森とシャーマニズムVS海とアニミズム。キリスト教的宗教観とは違う、神話世界から出発したフィンランド、日本の両国民の近似性を言葉以外の角度から論じるとは思わなかった。もう一度ホテルで態勢を整え、アールト設計の演奏会場「フィンランディア・ホール」まで徒歩15分。ヘルシンキ公演は8年ぶりというロサンゼルス・フィルハーモニックを音楽監督でフィンランドの人気者、エサ・ペッカ・サロネンの指揮で聴く。最初のドビュッシー「イベリア」は線がきつく、響きが痩せ、作曲家の人間的温もりを欠いた演奏で失望。ところが2曲目のバルトーク、ピアノ協奏曲第1番では完璧としか言い様の無いイェフィム・ブロンフマンの独奏とサロネンの棒が緊密にからみ、楽員もヴィルトゥオージティを発揮するに及び、光景が一変した。優れた解釈を得て、作曲家の革新性もアイデンティティーも、全てが多面的に再現された。後半はプロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」から10曲を抜粋した組曲。今日付の英紙「フィナンシャル・タイムズ」に載ったロンドン・プロムスでの公演評では、リズムの切れを褒める半面、叙情性の不足を指摘していたが、ヘルシンキの演奏を聴く限り、それは、かなり辛口の指摘だったと思われる。いかにもサロネンらしい、シャープな棒さばきで米国の楽団ならではの大音量にも事欠かないが、温かさも色気も、ちゃんと備えていた。休憩時間のロビーでヘルシンキのコンクールに上位入賞後、ロス・フィルの副指揮者を務める篠崎靖男と何年かぶりで再会した。ブロンフマンとも旧知の仲。地球は広いようで狭い。




 今日の音楽

 ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「大公」作品97の第1楽章の第2テーマです。
 ピアノ三重奏曲の中の名曲中の名曲です。

☆今流れている曲のアドレスは以下と通りです。音楽付きメール等にお使いください。
http://beethoven.op106.com/M20001201_091256/M20020911_040815.mid

をクリックすると一覧表が出てきます。

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