Ws Home Page (今日の音楽 )


2002年9月15日

音楽ジャーナリスト:池田卓生の今日の音楽日記
ご案内

 9月6日

 98年に開館したフィンランド現代美術館(Kiasma)のマーレッタ・ヤウックリ館長(女性)と10時に会うため、ホテルを出たら珍しく雨が降っていた(正午前には止んだ)。日本での展覧会の計画もあるという。常設のフィンランド現代作家に加え、外国作家の展覧会、知的障害者の絵画展など広範な展示内容だが、見せ方が上手なので、飽きない。米国人スティーブン・ホールの設計だが、施工はフィンランドの事務所の共同作業となり、原設計の野性味がすっかり消えてしまった建物らしいが、市民には溶け込み、カフェや芝生は大勢の若者でにぎわっている。正午からはアレクサンダー劇場でダンサー・振付家のテロ・サリネンを取材。彼自身のカンパニーを主宰し、この劇場内に新しい事務所を開いたばかり。「春の祭典」に沿った「HUNT」と前作の「ペトルーシュカ」(これも3人のダンサーにアコーディオン2台の音楽という変化球)のダブルビルでいつか、日本公演を実現したいと張り切っていた。1時半にホテルへ戻り、オンディーヌ・レコードのレイヨ・キルネン社長と待ち合わせ。プロムナード街にある美しいレストランで魚料理の昼食(とても美味)を御馳走になりながら、色々とアイデアを交換した。今や同レーベルの看板アーティストになったピアニスト、指揮者、作曲家のオリ・ムストネンがついにシベリウスのピアノ曲を録音、「これまでで最高の解釈を実現した」と興奮の面持ちで仮編集のCD−ROMを渡された。その後、フェスティヴァル事務局で記事に使う写真のディスク入力を頼み、BOSSで寸法直しの終わった服を免税伝票と一緒に引き取り、ホテルでシャワー。着替えを済ませて先ず映画館に向かい、Kiasmaのヤウックリ館長が「好景気に浮かれることをよしとせず、フィンランド人の暮らしの底辺に視座を定めて語る姿勢で現代アートの傾向とも軌を一にする」と推薦したカリスマキ監督の最新作、カンヌ映画祭でも評判をとった「過去を失った男」を英語字幕付でみた。ラスト近く、新しい生活を目指して地方都市から再びヘルシンキへ向かう列車の食堂者に主人公が座り、目の前に運ばれる食事は唐突に寿司と日本酒。不器用に箸を使うバックに流れるのは、僕にも聞き覚えのない「もっとワサビ」という日本語の歌謡曲だ。不意打ちの冗談を随所にちりばめながら、普通の人々の内面をきっちり描く監督の手腕は確かだった。上映終了と同時にフィンランディアホールへ駆け込み、英国の作曲家・ピアニスト、トーマス・アデスが指揮するフィンランド放送交響楽団の演奏会を聴いた。曲目が素晴らしい。ベルリオーズの歌劇「トロイ人」の第一幕が前半。後半は自作の「アメリカ(一つの予言)」で始め、「トロイ人」第五幕第三場の幕切れで閉める。アデスが指揮者としても優秀な事実は管弦楽を輝かしく鳴らしながら、ベルリオーズの天才的としか言いようがない作品の音の構造やテキスチュアを最大限克明に再現していくさまが証明する。2年前、29歳の時にニューヨーク・フィルのために書いた自作はその1年後、9月11日にマンハッタンで起こったテロの惨劇を予感したかのような鋭さに満ち、ベルリオーズとの間に強烈なコントラストと、意外なほどの共通点を感じさせる。独唱者の中ではベルリオーズのカサンドル、ディドン役を歌った新進メゾソプラノ、リリ・パーシキヴィの深く、輝かしい声が群を抜いていた。




 今日の音楽

 モ−ツァルトの最終回は、「キラキラ星変奏曲」にしました。この曲も、「今日の音楽」で何度かご紹介してきました。僕自身のお気に入りなので、再再度の登場です。
 正式名は、「お母様、あなたに告げましょう」を主題とする12の変奏曲K.265です。
 テーマとして使われている曲は、1770年代にパリではやった曲で、1778年にモーツァルトがパリを訪れた際に、変奏曲のレッスンに準備したのだろう、と推測されています。
 変奏曲が得意だったベートーヴェンが、同じテーマで変奏曲を作っていたらどんなものになっていたのだろう、と思うのも楽しいものです。

☆今流れている曲のアドレスは以下と通りです。音楽付きメール等にお使いください。
http://beethoven.op106.com/M20001201_091256/M20020911_082811.mid

をクリックすると一覧表が出てきます。


Back
Home



Mail to : Wataru Shoji