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2002年9月17日

音楽ジャーナリスト:池田卓生の今日の音楽日記
ご案内

 9月8日

 フィンランド出張の最終日。朝6時に起きて、7時半の急行バスで190`北にあるフイッティネンまで2時間20分、さらにタクシーで5分の「ヴァンハ・パッピラ」にデザイナー&マルチ・アーティストのマルック・ピリを訪ねた。1826年に建てられた牧師の住居を数年前に取得、カフェ&レストランを備えたイベント会場に改造し、庭も元通りに戻そうとしている。牧草庫はギャラリー、倉庫は宿泊施設に生まれ変わり、マルック手製の料理やケーキを楽しみに訪問者が絶えない。毎年夏から秋にかけて、ここで小さなフェスティヴァルが開かれる。室内楽や歌曲、ジャズ、小劇場系の芝居など、すべてをマルックがプロデュース。来年の7月26日には女性作曲家、カイヤ・サーリアホに委嘱した歌曲を世界的なソプラノ歌手、カリータ・マッティラがここで初演する予定。マルックは料理の腕を上げるため、来年1−3月に調理師学校へ通うというから、マッド。ホームメイドの軽い朝食、昼食を頂き、庭を散歩しながら、ギャラリーをのぞく。1ヵ月前、ポルトガルのベルガイシュで経験した自然との柔らかな対話を思い出した。オーナーの名前もピリス、ピリと妙に似ている。フイッティネン午後1時40分発のバスでヘルシンキに戻り、5時からは「東ヘルシンキ文化センター」でイルキ・カルットゥネン振付・踊りによるコンテンポラリー・ダンス「ケイユ(KEIJU)」をみた。ソロだが、マルチメディア・スクリーンには本人がいくつもの異なる衣装、踊りで現れ、実物と対立したり、一緒に踊ったりする。子どものころ、誰もが夢見た妖精の世界と現在の自分との遭遇といった設定で、人間の内面に潜む美しく、素晴らしい夢をもう一度、見せようとする。出で立ちは"スキンヘッドの星の王子様"か。音楽はパンフルートを多用、どこか東洋を感じさせる。親子連れでも楽しめる作品としては、前日の「ツィルカ」より優れている。今回の滞在はコンテンポラリー・ダンスに一つのポイントを置いた。フィンランドはドイツ、フランス、日本の影響も受けつつ、東西や新旧を超えた独自の世界を形成しつつあり、ダンスが指揮者や作曲家、デザイナー、建築家に続く文化の有力な輸出アイテムになる日は近そうだ。滞在の最後には音楽。オリ・ムストネンがJ・S・バッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻」とショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」を組み合わせて弾くピアノ・リサイタルを午後7時半から、フィンランディア・ホールで聴いた。数年前に日本で弾き、BMGからCDも出した第一弾は、階段状に調性が展開するバッハ的配列だったが、残りの曲で構成した第二弾は、5度の開きを置いて進むショスタコーヴィチ的配列。それぞれの作曲家の様式、時代精神をしっかり見据え、「調性」の歴史をたどり、最後は大きな音楽の永遠性を獲得するコンセプトには一段と磨きがかかり、休憩を含め2時間半の旅の終わりには、時代を超えた純粋な音楽の美に打たれている自分を発見する。透明な弱音、強靭なフォルテ、明快なアーティキュレーションとフレージングの全てがムストネンの持ち味。天才的と言える。アンコールはバッハ〜ヘス編だが、ムストネン流の生命力に満ちた「主よ、人の望みの喜びよ」。僕の出張だけでなく、フェスティヴァル全体が静かに幕を閉じた。バイロイトやザルツブルク以外にも素晴らしいフェスティヴァルがあることを多くの人に伝えたい、と思っている。




 今日の音楽

 ベートーヴェンの最終回は、ピアノソナタ第30番作品109の第3楽章のテーマにしました。
 10代のころ、この曲が弾けるようになることを夢みていましたが、35年近くたった今、それが不可能なことを知っています。
 しかし、コンピュータという武器を手にし、そして、この22ヶ月の「今日の音楽」の経験を通して、この曲を自分のモノにできそうな感触を得ることができました。作品109のソナタは必ず全曲入力してCDを作ります。
 いつかどこかで、皆様とそのCD上でお会いできますように……

☆今流れている曲のアドレスは以下と通りです。音楽付きメール等にお使いください。
http://beethoven.op106.com/M20001201_091256/M20020911_083908.mid

をクリックすると一覧表が出てきます。


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